大都会・新宿の一角にあって繁華街の喧騒から隔絶されたような緑に覆われた場所がある。
環境省の所轄にあり0.58平方キロの広さを持つ新宿御苑だ。
広大な敷地内は日本庭園やイギリス庭園・芝生広場などいくつものエリアに分けられており、入場者は思い思いの場所で寛いでいる。
私の好きな場所の一つは「プラタナスの並木道」(別名はスズカケ)
平日の昼下がり枯葉舞い散る遊歩道で敷き詰められた落ち葉ををザクザクと踏みしめながら歩くと
幼い頃にブラウン管型の白黒テレビから流れてきた歌謡曲が自然と口をつい出ててくる。
♪プラタナスの枯葉舞う冬の道で プラタナスの散る音に振り返る
帰っておいでよと振り返っても そこにはただ風がふいているだけ♪
https://www.youtube.com/watch?v=LDMgRlP-hc0
プラタナス並木の突端まで歩くと空いているベンチの一つに腰を下ろす。
西の空に低く傾いて行く真紅の太陽を眺めていると、今の自分を取り巻く苦悩や禍がチッポケなことのようして
一瞬でも忘却の彼方に吹き払ってくれるようだ。
ああ、俺の人生も色々あったなあ、決して幸多き一生ではなかったが、それなりに充実していたかなぁ。
まあ、そうだと思いたいなぁ
などと回想していると胸につかえを覚え呼吸がスムーズに整わなくなるが、特に苦しいわけではない。
ああ、これで俺の人生は終わっていくんだなぁ、と思うと睡魔に襲われたように意識が薄らいでいく。
閉園時間となり日も暮れて入場者の帰ったあとの園内を自転車で見回っていいる監視員がベンチに座ったまま身動きしない初老の男性を発見。
特に驚いた風もなく、「しょうがねぇなぁ、またかよ」って感じで事務所に連絡して清掃車を手配すると
初老男性の亡骸は事務的に撤去されていく。翌日は何事もなかったようにしてそのベンチは次の利用者を待つことになる。