昨年は土砂降りの雨の中での祭行とは対照的な日和でした。
決起の当日は帝都が大雪に見舞われたととの印象をお持ちの方は多いと思いますが、決起部隊と共に写真に映っている雪は前日に降り積もっていた雪の塊であり、当日は晴れていたということのようです。
賢崇寺の墓所に設置されています「二十二士の墓」を訪れる方は多いのですが、墓石の裏側まで確認する方は少ないかと思います。
裏側まで覗き込むのは失礼と思っているかもしれませんが、二十二士の氏名と死亡年月日が記されています。
これを見ますと決起から処刑までの流れの一端も改めて垣間見ることになります。
午後1時からは本堂で行われた仏心会主催の法要に参加しました。
仏心会は一応は「決起将校の遺族の集まり」となっています。
小生も遺族の一人ではありますが、あまり歓迎されていないようです。
法要後、近隣の蕎麦屋において直会を行いました。
祭行に際し、多くの方々から浄財をお送り頂きました。
ありがたく使わせて頂き、無事に祭行し80年目の新たなる決意を示してまいりました。
此処に改めて御礼を申し上げます。
決意文
本日は昭和維新運動の中核を成すに二・二六事件の決起から八十年目となる。
昭和四年、ウォール街での株価暴落に端を発した世界大恐慌の波は我国にも押し寄せた。
アメリカへの輸出に依存していた生糸の輸出が急激に落込み経済は一気に冷え込んだ。
都市部では企業倒産が相次ぎ「「大学は出たけれど」、との言葉が示すように街には失業者が溢れた。
追い打ちをかけるように三陸津波、そして東北地方を襲った冷害によって農業は大打撃を受け、東北地方では一家の生計を立てるために娘を遊郭などに身売りする事態となった。
時の政府は無為無策のまま経済は疲弊の一途。
そして、財閥・資本家は社稷を顧みることなく政治家と結託し己の利益を収奪することに奔走し、民は安価なる労働力として酷使される状況にあった。
斯くの如き状況にあって、国民を救済すべく民間人と陸軍青年将校が立ち上がったのが八十年前の本日未明であった。
天皇親政の下で国家の革新を図る事を希求したものである。
天皇の宸襟を悩ませ奉る君側の奸を成敗することを目的とした決起であった。
蹶起に参加した末松太平大尉は後に「軍服を着た百姓一揆であった」、と表現している。圧政に苦しめられる庶民の側に立ち、逆賊となる事も恐れずに現状打開を目指したものであった。
現在の世情もまた、形を変えて庶民を苦境に陥れて憚らない政府・財界のありかたが問われてしかるべきである。
自由主義経済の下で規制緩和が進むことで格差社会という歪が生じている。
いくら努力しても決して現状の貧困から抜け出すことができない層が存在する。
下流老人なる言葉が横行し、弱者が徹底的に虐げられる社会は、農村の娘が身売りに出される当時の様と何ら変らないではないか。
企業は生産の拠点を海外に移し産業は空洞化の一途。
食糧自給率は四十%を切り、海外で生産した物でほとんど全てが賄われているのが現状。
人手不足の外食産業では海外で加工・輸入した食品を電子レンジで温めて皿に盛って提供するだけ。
これでは十年間継続勤務したとて労働者には何ら技術が身に付くはずもなかろう。
正社員と同等に勤務しても年収200万円台の非正規雇用若年・壮年層が巷には多数存在している現状を財界は如何に見ているのか。
貧困を原因とした子供の学力低下。それに起因する非行と犯罪。
その子供から産まれてくる子供の更なる無教養の連鎖。
多様なるライフスタイルと称する中での離婚件数の増加。
そして片親世帯による生活保護申請の急増。
母親の再婚相手・内縁の夫による子供への虐待・殺人の横行。
現体制・財界が望んだか否かは別にして、結果的に過度な自由経済・規制緩和と海外移転、そして多様な価値観の許容が社会を狂わせているのである。
二・二六事件の決起においては君側の奸たる重臣を斃す事が目的であり、その後の具体的国家改造の計画が示されていなかったと言われている。実際はいかばかりであったのか。
一部では蹶起に関わっていたと目されていた皇道派の重鎮たる荒木貞夫大将、そして真崎仁三郎大将は司直の手にかかることはなかった。
原隊復帰・武装解除の命に従ったのは公の場において自らの信条を開陳する機会が与えられると信じたからである。
しかし、此処「二十二士の墓」に眠る烈士に対する審判は非公開の暗黒裁判にて行われた。
裁判記録は未だに東京地検の地下倉庫に保管されたまま一般には非公開となっている。
我々は過去の敗北から学習する能力を身に付けて、来るべき平成の国家革新運動を成就に導かなければならないのである。
現体制の為政者・財界指導者に対する処断の手法、その後の国家統治等課題は山積しているが、これらを一つ一つ乗り越えて平成の維新を現実のものとすることを此処に改めて決意するものである。
平成二十八年二月二十六日
二・二六事件墓前祭実行委員会
決起将校遺族 代表